小児内分泌科(専門外来)
血液中に存在するホルモンは、体内で様々な重要な働きをして正常な生命活動をコントロールしています。ホルモンの分泌が不足したり、逆に過剰になったりすると生体は恒常性を保てなくなり多彩な症状が出現し健康状態を脅かします。とくに小児ではホルモンの分泌異常が正常な発育発達を障害することがあり、早期診断・治療が非常に大切になります。当院では、治療可能なホルモン異常を的確に診断し、最適な治療を行うことをモットーに診療していきたいと考えていますので、下記の症状をご参考にしていただき少しでも心配ごとやお困りのことがございましたら受診してください。
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1.低身長症
乳幼児健診や学校での健診で身長が成長曲線下限(−2SD)を下回っていたり、現時点での身長が正常範囲にあっても年間の身長伸び率が低下している場合、医学的に「低身長症」と診断されます。以下に掲げる疾患では治療が可能です。
1)成長ホルモン分泌不全性低身長症
成長ホルモンは脳の下垂体から分泌されますが、生まれつきや分娩時のトラブル(難産で仮死で出生、強度の黄疸など)で分泌が低下すると、その後の身長発育が障害されます。原因がわからず成長ホルモン分泌が低下している場合の方が多いかもしれませんが、身長の計測値が成長曲線から徐々に下方に離されていくことが特徴的です。成長ホルモンの分泌能を検査して診断します。確定診断されれば成長ホルモン補充療法(連日もしくは週1回の在宅での注射療法)の適応になります。
2)SGA性低身長症
妊娠中にお母さんのおなかの中で胎児の育ちが悪くて、出生時に在胎週数に比べて身長体重ともに小さく生まれてくる児がいます(英語でSGA児:Small-for-gestational ageといいます)。通常は出生後、身長体重ともに正常に追いつくことが多いのですが、3歳を過ぎても追いつかない児は最終身長も低く終わってしまうことが知られています。成長ホルモン補充療法を行うことで身長を伸ばしてあげることができます。SGA児に該当するかどうかは、出生時の体重身長の基準値が公表されています。
3)ターナー症候群
女児の染色体異常(X染色体という女の子を決める染色体の異常)による低身長です。女児の低身長では染色体の検査をしないと診断することができません。体つきに特徴(翼状頸、内反肘、心臓奇形など)がみられることがありますが、外見上、低身長以外全く異常が認められないこともあります。女性ホルモンも十分分泌されず思春期年齢になっても乳房が膨らんでこないことで気づかれたりします。成長ホルモン補充療法の適応になります。さらに女性ホルモンの補充も必要になってきます。
4)体質性低身長症(いわゆる「おくて」)
出生時の身長体重は正常ですが、1~2歳頃に身長が低くなり、その後は低身長のまま成長曲線に沿って発育します。思春期発来が同年齢児より遅れてくるため最終身長は正常範囲に入ってくる低身長症です。成長ホルモン分泌は正常ですので、成長ホルモン補充療法の対象にはなりませんが、いつ思春期が来るのか予測できず不安になることが多いです。低身長症の中で最も多いパターンですが、定期的に受診していただき、骨の成熟度(骨年齢と言って実際の年齢より身長とよく相関します)をチェックしていきます。稀に思春期が早期に発来し、最終身長が低くくなることが予想される場合には、後述する思春期早発症に準じて思春期を遅らせたり、骨成熟を抑制する治療(男児の場合のみ自費でプリモボラン服用)が必要になることもあります。保険診療にはなりませんが、自費診療で成長ホルモン補充することも例外的ですが、選択肢の一つになるかもしれません。
5)先天性・遺伝性低身長症
骨系統疾患と言って先天性の遺伝子異常で骨の成長が障害され、低身長症をきたす疾患が知られています。骨の変形を伴ってくることが多く、整形外科的な治療やリハビリが必要になることが多いです。四肢短縮症を伴う軟骨無形成症・低形成症(いずれもFGFR3遺伝子異常)については成長ホルモン補充療法の適応になります。外科的な骨切延長術に加えて近年FGFR3蛋白を調節するボソリチドという治療薬も登場しました。ほかにも稀な疾患にはなりますが、骨の成長が障害される先天性代謝異常症が低身長を主訴に見つかってくることもあります。
2.思春期早発症
女児では7歳6か月未満に乳房発育、8歳までに陰毛発生、10歳6か月まで月経発来が認められた場合、男児では9歳までに精巣容積増大、10歳までに陰毛・腋毛発生、11歳までに声変わりが出現した場合、思春期早発症に相当します。それぞれ女性ホルモン、男性ホルモンが年齢不相応に分泌し、骨成熟が亢進して身長発育が進行します。年齢不相応の身体発育が児にとって精神的・心理的にストレスになることが多く、女性ホルモンや男性ホルモンを停めてあげる治療(約1か月に1度の定期的なLH-RHアナログ製剤注射による性腺抑制療法)を行います。身長がすでに同年齢児より大きい児が多いのですが、年齢相当もしくは平均以下の身長の場合、最終身長が低く終わってしまうことがあり、性腺抑制療法で骨成熟を先延ばしする必要があります。原因として脳腫瘍や性腺腫瘍が隠れていることがあり、慎重な鑑別診断が必要です。
乳幼児で乳房肥大、陰毛発生、性器出血が一過性に認められる「早発乳房」、「早発陰毛」、「早発月経」があり、治療を要さない病態がありますが、性ホルモンの分泌亢進や骨成熟に伴う急激な身長発育がなく区別することができます。ご家族が心配されることが多く、検査によって真の「思春期早発症」と鑑別する必要があります。
3.小児肥満症
カロリー過剰摂取と運動不足による単純性肥満が大部分ですが、まれにホルモン異常による肥満がありますので注意が必要です。太りやすい遺伝的体質もありますが、放置されるとメタボリックシンドロームになり、将来生活習慣病(糖尿病、高血圧、心血管疾患、脳血管障害など)になっていくことはよく知られています。子どもたちに食生活の改善や運動を奨励することを指導しますが、限界がありご家族や学校関係者の協力が是非必要です。定期的な受診で食事療法や運動のアドバイスを行っていきます。定期的な検査(血液検査、腹部超音波)を行い、肥満による合併症の早期診断を行います。
4.糖尿病
1)1型糖尿病
食事から摂取された食事中の炭水化物(糖質)は、消化管から吸収されて血液中で膵臓から分泌されるインスリンというホルモンの作用により細胞の中に取り込まれていきエネルギーのもとになります。血液中の糖分(血糖といいます)に応じてインスリンが分泌され血糖値が正常にコントロールされていますが、インスリンの分泌が不足すると血糖値が上昇し、尿中にも糖が溢れ出てきて「糖尿病」となります。膵臓からインスリンを分泌する細胞が自己免疫の異常で障害されインスリンがほとんど分泌されなくなるのが1型糖尿病です。体外からインスリンを補充しないと血糖値の異常上昇で生命が脅かされる状態になります。小児期に発症するることが多く、健康状態を維持するためにインスリン注射が必須になります。将来的に遺伝子治療などが期待されており、注射療法が過去のものになる可能性がありますが、現時点では糖尿病の合併症(腎臓や目の障害など)を発症させないため毎日の血糖コントロールが欠かせません。当院の鴨田知博は、30年以上にわたり茨城県小児糖尿病サマーキャンプを開催して患児たちに治療のアドバイスと仲間との集いの場を提供してきました。今後も、1型糖尿病児の治療に尽力していきます。
2)2型糖尿病
肥満症では膵臓からインスリン分泌は保たれているものの、インスリンの効果が障害され(インスリン抵抗性といいます)血糖のコントロールができなくなります。2型糖尿病と呼ばれ、成人の大部分の糖尿病はこのタイプの糖尿病です。放置されると全身のいたるところの血管が長期にわたる高血糖のために障害され、心血管、脳血管、腎臓、目の合併症を来し健康な生活を送れなくなったり、命取りになることがあります。1型糖尿病と違い、直ちにインスリン注射が必要になることはありませんが、合併症予防のために生活習慣の改善や体重コントロール、さらにインスリンの効き目を増強させる薬物療法を行います。当院の鴨田は長年茨城県学校検尿委員会に委員として携わってきて学童の糖尿陽性者が増えていることを目の当たりにしてきました。前述の肥満症から2型糖尿病を発症してくるケースが圧倒的に多いことから、発症前の予防が最も大切と考えています。不幸にして糖尿病に進展した場合、近年小児でも使用できる抗糖尿病薬が登場してきており、食事・運動療法に加えて適切な薬物療法の導入を行っています。
5.甲状腺疾患
1)甲状腺機能亢進症(バセドウ病)
学童期の女児に好発します。食物を食べても食べても体重が減ったり、運動すると疲れやすく、冷たい水を大量に飲むようになったりします。目が飛び出してきたり、首が太くなったりする(甲状腺が腫れている)ことで気づかれることがあります。本疾患を疑わないと甲状腺機能検査をすることはないのでなかなか診断がつかないことがあります。急性期は入院して治療することもありますが、軽症のうちは外来で抗甲状腺剤の治療を行っていきます。再発が多いことから長期にわたる治療が続くことがありますが、日常生活や学校生活は通常通りに行えます。
2)甲状腺機能低下症(橋本病)
甲状腺に対する抗体が産生され、甲状腺ホルモンの分泌が障害され、つかれやすい、だるい、元気がないなど不定愁訴が多いため、本疾患も甲状腺機能検査と甲状腺の抗体検査を行わない限り診断がつきません。バセドウ病同様、学童女児に好発します。甲状腺が腫れてきて頸の周りが太くなって気づかれたり、学校の内科健診で甲状腺腫を指摘されてくることが多いです。特に思春期では生理的に甲状腺が腫れてくるものの甲状腺機能が正常な「思春期甲状腺腫」との区別が大切です。治療は甲状腺ホルモン剤を服用してもらいますが、長期に治療が及ぶことがあります。
6.高脂血症
日本人には血液中のコレステロール値が高いいわゆる「家族性高コレステロール血症」の方が多く、代々コレステロール値が高い家系が知られています。成人では人間ドックで指摘されることが多く、放置すると血管に脂が沈着し、動脈硬化から心血管疾患に到ることから薬物療法が行われます。小児でも健診などで高コレステロール血症が見いだされ、早期治療で将来の合併症が予防できることから、本邦では10歳以降の児で生活習慣(食事・運動など)の改善を行ってもコレステロール値が低下しない場合には成人同様薬物療法が推奨されています。
7.夜尿症・おねしょ
抗利尿ホルモン(腎臓で尿を濃くするホルモン)の夜間分泌低下が夜尿症の原因の一部を説明できるので当院内分泌外来で治療しています。夜尿は昔から「起こさない」「怒らない」「焦らない」と言われていて、自然経過でいつかは治るとされてきましたが、やはりほおっておくと治るのに時間がかかるとされています。まれに成年になっても続くことがあるともいわれています。また、昼間の尿失禁は、腎尿路系の器質的疾患の鑑別や排尿訓練の励行が必要なこともあり、夜尿だけの場合と異なったアプローチを要します。6歳以上の夜尿症に対して生活習慣の見直しを行ったうえで薬物療法(抗利尿ホルモンであるDDAVP製剤や過活動膀胱治療薬)を開始しています。薬物療法ですぐに夜尿が治るわけではありませんが、児への意識づけとして有効な場合があり、少しでも成功するときがあれば褒めてあげると児の自信につながっていきます。薬物療法で不十分な場合にはアラーム療法を導入しています。当院はピスコール(アラーム機器)のレンタル利用が可能な医療機関に登録されています。お泊り合宿、宿泊学習、修学旅行に不安を感じている本人やご家族の気持ちに寄り添えればと思っています。
8.その他の疾患
小児のホルモン異常症は、記載した疾患以外に多数ありますが、すべての疾患に対応できないことがあります。ご相談のうえ、適切な医療機関(茨城県内・県外)にご紹介するようにいたします。たんぱく尿・血尿など学校健診や3歳児尿検査などで異常を指摘された場合の精密検査は当院で行いますので受診してください。
当院は小児内分泌疾患の専門外来ですので、小児一般の疾患(発熱、発疹、咳、鼻水、嘔吐・下痢などをきたす感染症やアレルギー疾患など)に関しては申し訳ありませんがみることはできません。また、内分泌疾患かどうか判断できない場合にはお問い合わせください。茨城県内の各専門分野の小児科医を数多く知っていますので、わかる範囲内で適切と思われる医療機関や医師を紹介いたします。